虹の里から

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「外交が見えない」―田中均という外交官がいた

 外交官と言えば、わたしは学校で習ったあの日露戦争後の「ポーツマス条約の小村寿太郎」くらいしか知りません。最近、雑誌と新聞で田中均という元外交官だった人のインタビュー記事を偶然ですが読む機会があって、「おっ、こんな人が日本にいたのか!」と驚かされました。今日はそのことを書きます。

 記事によれば、田中均さんは1947年生まれ(お、団塊だ!)。20年前・2002年の小泉純一郎首相による歴史的な北朝鮮訪問に至る事前の秘密交渉を担った元外務審議官。外務省北米局審議官・経済局長・アジア大洋州局長など歴任。日本総研・国際戦略研究所理事長を経て現在は特別顧問。

 わたしが読んだ記事は、

①『世界』1月号「日朝首脳会談二十年 失われつつある東アジアの展望」(2022年12月初旬発売)。聞き手は、青木理さん。

朝日新聞2022年12月20日「外交が見えない」。聞き手は、小村田義之記者。

 ロシアによるウクライナ侵攻、北朝鮮のミサイル発射や核実験、米中対立による台湾有事懸念・・・、それらを背景にして軍事大国化に突き進む日本。

 そんな中で、わたしは「日本の外交」は、どうなっているんだろう?今こそ外交の秋(とき)ではないのか。日本は平和をつくる外交の方にこそ力を入れるべきではないのか。「外交の安倍」「外交の岸田」と言われながら、この二人はこれまでいったい何をしてきたのだろう、とずっと思ってきました。ほんとうにまったく「外交」が見えなかった。そのことを、ハッキリと言ってくれる人がいた!田中均さん、貴重な人だなと思ったのです。

 田中さんは、安保関連3文書を「これは戦後の安保政策の大転換であり、日本に適切な政策とは到底思えない」と言い、「日本だけで中国・ロシア・北朝鮮を抑止できない」現状認識を示しつつ、「日米安保体制の中で、専守防衛に役割分担しながら、周辺諸国を刺激しないように、これからまわりの国々とどう関係をつくり、安保環境をよくするか。そういう外交が見えない」「ないですよ」とハッキリ言います。

「『中国に強くあたる』『韓国に強くあたる』という政治家の要請を受けて対外関係をやっているように見えます。『外』と交わることなく国内の意識を外にぶつけているだけです」

「私は戦争を起こさないようにすることが日本の生きる道だと思っている。米国の抑止力を使いながら、地域の脅威のレベルを下げることが目標だと思うんです。今の流れはそれに逆行しています」

ウクライナをみれば、ロシアの直接の脅威の下にあるNATOが従来の公約である2%実現に動くのは自然です。だからといって日本が欧州と同じ行動をとるのが適切かはやはり吟味が必要です」「教育や子育てなど他の優先政策との比較でも防衛費を突出させることが日本の国力を上げることになるのか疑問です」

「日本が反撃能力を持ったら北朝鮮がミサイルを撃たなくなると思いますか。北朝鮮がさらに強い行動をとり、軍拡を加速させるという推測も立てざるを得ない。緊張が高まらないよう、交渉で止めるのが外交じゃないですか」

 わたしが「外交官」にイメージするのはやはり“冷徹な人間”ですが、それでもヤッパリ“熱い血”がほしい! 田中均という人には、それがあったのです。

 氏は外交官としての「興奮」を語ります。(わたしが最も興奮して読んだところです)。

「一つには、明らかに職業的興奮です。私が外交官を志したのは、自分の意志と行動で歴史を動かせるかもしれない、少し大げさに言えば、平和な世界をつくれるかもしれない、それが最大の動機でした。」

「もう一つの興奮は、歴史的視座から湧きあがるものです。朝鮮半島との関係は、日本の安全保障の原点です。朝鮮半島に平和と安定を築くのは、外交的野望でも何でもなく、日本の責務です。ならばその責務を果たさなければならない」「それこそが目標であり、外交官としてその使命を果たせるからこそ興奮を覚えた。」

「ひるがえって現在の状況を見ると、外交も内政も目的のスケールがあまりに小さくはないか。当たり前の話ですが、政権を安定させることが政治の目的のはずはなく、日本をどう繫栄させるかが本来の目的でしょう。対外関係だって、米国にくっついていくのが目的であろうはずがない。いかに日本と周辺に平和な環境を築くかが目的であって、そのために米国との関係はもちろん、韓国や中国、そして北朝鮮を含むさまざまな国と関係をつくらなければならない。その大局観がなく、目的意識が非常に小さい。ミサイルが飛来してきたらどう身を守るか、地べたに伏せるとか地下に逃げるとか、政治もメディアもそういったミクロな話題に集中し、大局観や目的意識が希薄になっているのは憂慮すべきことです。」

 聞き手の青木理さんの問いです。実にいい問いです。

「田中さんは以前おっしゃっていましたね。戦後日本外交には積み残された大きな宿題が二つあって、一つはロシアとの間で領土問題を解決して平和条約を結ぶこと、もう一つは北朝鮮との間で戦後処理を済ませて関係を正常化することだと。

 後者の場合、そのためには拉致や核・ミサイル問題といった困難な課題があるけれど、その解決だけを迫っても北朝鮮が譲歩するはずはなく、だから大きな絵図を描いたと田中さんはおっしゃいました。つまり日本は北朝鮮との間で戦後処理を済ませ、正常化を目指すのが目標なのだと。そうすれば、日韓のように経済協力方式を採るかどうかはともかく、将来的には北朝鮮側にも大きなメリットがある。他方、そこに向かうには拉致や核・ミサイル問題を解決しなければならない。

 そうした大きな絵を田中さんたちは描き、これに北朝鮮側も応じて首脳会談は実現した。そして不十分とはいえ北朝鮮は日本人拉致を認め、一部の拉致被害者の帰国が実現し、両首脳は日朝平壌宣言にも署名した。とすれば、当時の金正日政権は日朝の正常化を真剣に目指していたことになります。」

 田中さん。

「だと思います。私の交渉相手だった北朝鮮側の要人にしても、金正日氏にしても、彼らが自分たちの未来を、北朝鮮の未来を考えた時、日本との関係正常化を一つの柱として米国や韓国との関係をつくっていくこと、それが損か得かは非常に難しい判断だったと思いますが、少なくともやってみる価値があると考えたのは事実でしょう。

 他方で日本のような国、民主的な国の外交で難しいのは、国内でその意義を説得する作業です。...」 

「現状を見ると、官僚がプロフェッショナルな使命感を抱いて難題に向き合うこと自体、二十年前より難しくなっている。同時に政治と官僚の関係も再構築しないと、外交課題にせよ内政的な課題にせよ、正面から取り組むことなどできません。

 そもそも困難な課題に取り組む作業は政治上のリスクを伴います。そして政治的責任は政治家しか取ることができない。それを前提に政治が官僚のプロフェッショナリズムを生かせる体制を再構築することが現在の日本には必要で、それは決して無理なことではないと私はいまも考えます。基本的には指導者の姿勢と覚悟の問題だからです。」

 まだまだずっと紹介していきたいのですが、このくらいにします。

 それにしても、安倍さんや岸田さんの「指導者」としてのひどさには、天を仰いでしまいます。北方領土問題は絶望的になったし、北朝鮮との関係正常化も絶望的にしてしまいました。中国とは日本の持てる力の総力を挙げて取り組まなければならないのに、首脳会談さえやらない。世界中を回って各国に合計100兆円近くもばらまいたといわれている二人の外交は、最も大切な中国・ロシア・北朝鮮・韓国との外交をおろそかにしました。

 この間も、岸田首相は前中国駐日大使の離任面会を断りました。こんなことさえできない首相に愕然としました。米中関係が硬直化しているこんな時こそ、おろそかにしてはいけない最低限の儀礼対応です。

 日本の外交官たち、今です!いまこそ、頑張っていただきたい!知力の限りを尽くして!田中均さんのあとにつづいてください!!

                      (2023・3・26)