虹の里から

地域の人たちと、「まちづくり」について意見を述べ合う、交流ブログです!

夢の「核融合」技術に挑む子供たちはいないか?!

 夢を見た。

 人類の夢の科学技術・「核融合発電」の完成を志した少年少女たちが、この町にいた!そして、10年後・2032年。彼らはついに、その実用機を完成させた。彼らは特許のことなど眼中になく、技術(設計図)を全世界に公開し普及促進を図ったので、この発電炉は瞬く間に地球全土に建設された。これにより、人類の悲願ともいうべき「地球温暖化問題」「エネルギー問題」は、解決された。その功績によって彼らはノーベル賞のすべての賞を受賞した。各国の政府も独自の賞を彼らに与えた。・・・

 『世界史の分岐点 激変する新世界秩序の読み方』(橋爪大三郎佐藤優、SB新書、2022・1刊)を読んだ。面白かった!「知の巨人」二人の対話に興奮して眠れなかった。

 中でも、「核融合」を論じ合ったページ(「核融合発電こそ未来である」)にはワクワクさせられた。これを取り上げずにいられようか! で、今回はその紹介。というか、自分への備忘録。よろしかったらお付き合いのほどを!(ぜひ!)

■ 核融合発電とは何か?

橋爪 

 核融合発電は、簡単に言えば、原子核のエネルギー(核力)を、原子核を融合させて、取り出して、発電することです。

 分子量の大きな原子は、分裂すると核力を放出します。人間に有害な、放射性物質も生まれます。これに対して、分子量の小さな原子は、融合すると核力を放出します。放射性物質は出ません。太陽は、水素がヘリウムに核融合して、燃えています。

 核融合発電の場合は、重水素をヘリウムに融合させます。重水素は、原子核が陽子と中性子原子核が陽子2個と中性子三重水素トリチウム)も用います。これが融合してヘリウムになると、高エネルギーの中性子が出てくる。その中性子をキャッチして、熱に変換します。で、発電ができる。ヘリウムは無害です。中性子は、キャッチすれば無害です。熱になるほかに、三重水素も生産されるので、発電しながら核融合の原料がつくれます。

 さて、核融合炉はいつ実用化するのか。原理がわかっているだけで、いまは炉の基本設計ができかけた段階です。重水素三重水素を加速して、高エネルギー状態(1億度)のプラズマにします。このプラズマを閉じ込めると、核融合反応が安定的に起こると予想されます。その装置は、トカマク型といって、電磁石のドーナツみたいです。

 さて、あと何年でこの技術が実用化するのか。諸説あります。数十年、遅くても今世紀中でしょう。

■ その革命的意味とは?

橋爪

・ 核融合炉とは、簡単に言うと、「エネルギーが装置で生産できる」ということです。ふつうエネルギーは生産できないので、エネルギー資源を燃やしたりしていたのが、装置産業になる。産業全体、経済全体が、エネルギーの制約から自由になるのです。

・ しかも、炭酸ガスが出ない。環境への負荷もほとんどない。これがどんなに画期的な意味をもつか、わかりますね。ほかのエネルギー技術とは話が違うのです。

・ 核融合にも、少しの材料は必要です。三重水素核融合炉の副産物として出てくるから問題ない。重水素は海水中にあって、ほぼ無尽蔵です。ということで、石炭や石油のようなエネルギーに依存する時代は終わるのです。

・ 核融合が実用化した世界は、それ以前の世界とどこが違うのか。それまでは、エネルギー資源があった。石油や石炭は、特定の場所に埋まっていた。それを消費地(先進国)に輸送して、発電は消費地で行っていたのです。中東を防衛したり、シーレーンを防衛したり、地政学的な配慮が必要だった。

・ パイプラインもなくなる。だから、世界の軍事的、地政学的、戦略的配置が大きく変わる。中国に石炭があるとか、アメリカが産油国だとか、もどうでもよくなる。

佐藤

・プラスチックなど化学製品の製造にも石油は必要ですが、大半はやはりエネルギーですから、石油の用途、需要は非常に限定的になりますね。

・ 何よりも重要なのは、軍事転用ができないということです。 

■ 問題点は?

佐藤

・ 政治コストなんですよ。核に対する形而上的抵抗感。これは、理屈をわかっているほうからすると迷信に過ぎませんが、迷信であるがゆえに根強いんです。要は政治家が思考停止せずに政治をする、つまり政治的に立ち回って実現させていく気があるのかという問題です。

・ 核融合技術に関しては、一応、形としては国際協力の枠組みがあっても、どこの資本だって抜け駆けしたくなりますから、やはり国際関係の大変動、資本同士の覇権争いにつながっていくでしょう。ただし開発の規模からして、おそらく多国籍企業であっても特定の民間企業の力だけでは難しいと思います。

・ ただ、ここで1つ大きな障害になるのは、ネイション・ステイトだと思います。

・ 「啓蒙的理性」を育てることが必要です。

橋爪

・どの国がいちばん最初に、効率のいい商用炉をつくるか、の競争です。ただ核融合炉は、電気をつくるだけです。従来の送電網にくっつければ終わりです。風力発電とか、砂漠に太陽熱発電所をつくるとかいう、余計な設備投資はしないですむ。再生可能エネルギーは、核融合が実用化するまでの「つなぎ」です。

・ 勝負は、電気代だと思う。どれだけ安く、効率のいい核融合炉ができるか。それは超電導の技術や、磁石の性能やコンピュータ制御のソフトや、そういう総合力の問題になる。この総合力があるのは、アメリカ、中国、EU。あとは日本、ロシア、インド。このへんですね。その中で一番信頼出来て値段の安いものが、世界中の核融合炉を受注することになる。日本はそこに割り込むのがいいです。全部を受注できなかったとしても、超電導コイルは任せてください、みたいに割り込む。つまり、ここにはかなり投資すべきです。

・これ、行く行くは、膨大な雇用をうみだす基幹産業になると思いません?今ある日本の大企業とは、無関係ですけどね。

 この話が載っている第2章「科学技術の分岐点 人類の叡智が、新しい世界を創造する」には、さらに今後20年くらいで現れるであろう「驚くべき新技術(EDT)」についても触れられている。データ、AI、自立システム、宇宙空間の高速移動、量子技術、バイオ、新素材。しかも、これらが組み合わさって、新しい創発効果をうむだろうことまでが。

 わたしたちは「未来」に絶望しなくていい、そんな気持ちにさせてくれる。

 そして、橋爪さんは、この章の最後をこう締めくくる。

・ 産業、経済を育てるには、技術者、経営者、経済学者、政治家、アカデミアの人間などいろいろ社会や人間についてよく理解している人びとが、知恵を出し合っていかないとダメです。日本人がちゃんと給与をもらって、安心して働ける産業を、創造しなければならない。いまある産業は、だいたいなくなっちゃうのですから。

・ 介護とか、サーヴィス業とか、効率化がむずかしく生産性があがりにくい業種がかならずあります。そういう業種の人びともみな、中産階級としてともに暮らしていくためには、生産性の高い新産業を育てて、そこで生み出される付加価値を、みなで分け合う分配の仕組みを築くしかない。日本国内に付加価値の高い新産業を育てる。それしか解決はないのです。日本の既存の大企業は、海外に生産拠点を移し、派遣や非正規を踏み台に、自分だけ生き残りをはかりました。こうした大企業が、これから必要な分配の仕組みを担うのはもう無理だと思います。

佐藤

・ 特にGAFAみたいなものをモデルにして、そこにイノベーションを求めたとしても、雇用は生み出さないですからね。

 以上で長い引用(書き写し)を終わるが、せっかくだから他の章もタイトルだけ記しておく。

・第1章 経済の分岐点 「アメリカ一極構造」が終わり、世界が多極化する

・第3章 軍事の分岐点 米中衝突で、世界の勢力図が塗り替わる

・第4章 文明の分岐点 旧大陸の帝国が、覇権国の座を奪う

 著者二人について

橋爪大三郎氏は、1948年生まれ。社会学者。東京工業大学名誉教授。

佐藤優氏は、1960年生まれ。作家。元外務省主任分析官(ロシア担当)。

 日々報道されるロシアのウクライナ侵攻に憤りが止まらない。いま人類がすべきは戦争(侵略)ではない。両氏が論じたようなことこそ、人類の喫緊の課題だ。

                      (2022・4・14)