虹の里から

地域の人たちと、「まちづくり」について意見を述べ合う、交流ブログです!

農業の時代が、来るかもしれない。(シン・二ホンへ!⑥)

♪ 赤い花なら 曼珠沙華

 オランダ屋敷に 雨が降る

 濡れて泣いてる ジャガタラお春~

 子供のころ、ラジオから流れていて覚えたこんな歌が口をついて出ます。曼珠沙華彼岸花が咲き誇っています。川の土手・農道の両脇・みかん畑の中、今年ほどの広がりと量はかってないほどです。一斉清掃や道つくりなどで草管理が行き届いた時期と重なったからでしょうか。見事です。

 みかんの収穫の時期が始まりました。先頭を切る極早生品種は、すでに中盤です。間もなく十月、さらに忙しくなります。

■驚天動地の農業政策?!「みどりの戦略」とは。

 今回は、『世界』(岩波書店の月刊誌)10月号に載っている、谷口吉光氏の「農と食をめぐるパンデミック500日」という記事を紹介します。谷口氏は秋田県立大学教授。日本有機農業学会会長。

 中ほどに、「コロナ禍の混乱のなかで、食と農をめぐる動向を見きわめようとしたが、なかなか確実なことがいえないもどかしさが続いていた。ところが、年が明けて二〇二一年一月、全国の農業関係者を驚かせる出来事が起こった。農林水産省が「みどりの食糧システム戦略」(以下「みどりの戦略」)という新しい政策を突如打ち出したのである。」という書き出しで、農水省の新しい政策をとりあげています。日本農業新聞を読まれている方には周知のことでしょうが、わたしには初耳です。えっ、あの農水省が、と驚くような政策です。つづけて引用します。

 この戦略の目的は「食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現する」とされていて、二〇五〇年までに次の四つの数値目標を達成することが明記されている。

農林水産業のCO₂排出量実質ゼロ

・化学農薬の使用量を五〇%削減

・化学肥料の使用量を三〇%削減

有機農業の面積を一〇〇万ヘクタール(全農地の二五%)に拡大

 少しでも農業を勉強した人なら、この政策がこれまでの日本農業の方向を大転換するものだということがわかるだろう。これまで農水省は農薬と化学肥料を使うことを当然とする「近代農業」をずっと推進してきた。(中略)二〇五〇年までに日本から「慣行栽培」をなくしてすべて「減農薬栽培」にするということになる。農業の常識を根底からひっくり返すような話である。そして有機農業である。有機農業が農業政策の中にきちんと位置づけられたのは、二〇〇六年に成立した有機農業推進法以来のことであるが、それから一五年、遅々として有機農業の普及が進まずに来た中で、突如、政府がみどりの戦略をぶち上げて、近代農業の前提を覆すと自ら宣言したのである。それもコロナ禍の真っ只中に。

 (世の中が変わった?時代が変わった??なにが、背景にあるのでしょうか???)

■背景に何がある?ー「コロナ後、持続可能な社会への転換が進む」

 みどりの戦略が二〇二一年一月に提起された理由は、人間の経済活動が地球の限界を超えてしまったという国際的な危機感の高まりに押されたから、そして先進各国がコロナ禍による経済不況から脱するために大規模な新産業の創出に動き出したからである。パンデミック宣言と同時期にEUが持続可能な社会への転換と新たな成長戦略を融合させて「グリーン・リカバリー」を打ち出したことが大きく影響している。

 食と農の分野ではこれに加えて二〇二〇年五月にEUが打ち出した「農場から食卓への戦略」の影響が大きい。この戦略はコロナ禍によって従来のフードシステムが持続可能でなかったことを認め、次のような特徴を持ったフードシステムへの転換を加速しようとしている。

環境負荷がゼロまたはマイナスである

・気候変動を緩和し、その影響に適応する

生物多様性の喪失を逆転する

・食の安全、栄養、公衆衛生を保証し、すべての人が十分な、安全で、栄養ががあり、持続可能な食にアクセスすることを保証する

・食品の値ごろ感を維持し、より公平な経済的利益を生み出し、EUの供給部門の競争力を強化し、公正な貿易を促進する

 そして二〇三〇年までに次の具体的な目標を達成するとしている。

・農薬の使用量を五〇%削減する

・肥料の使用量を最低二〇%削減する

・家畜と養殖魚への抗生物質の使用量を五〇%削減する

有機農業の面積を二五%に拡大する

(なーんだ、丸写しじゃないか、という半畳を入れるのはよしましょう。どうせマネするなら、目標達成時期も同じにしたらいいのにね。日本という国はいつまでたっても、ヨーロッパやアメリカのマネ、後追いばかりですね。しかも換骨奪胎みたいな。)

 EUと日本の政策転換を比べると大きな違いがある。EUは持続可能な社会への転換と新たな成長戦略の創出(一言で言えば、持続性と経済)という二つの目標の同時達成をめざしており、両者のバランスを見ると持続性の方が重い。ところが、日本のみどりの戦略は経済の方が非常に重く、持続性が軽い。(中略)みどりの戦略において持続性は「お題目」に過ぎず、実体は経済政策の焼き直しなのではないか、また本来の目的は日本農業の再生ではなく、先端工業の育成なのではないのか、という疑念を抱かざるを得ない。

(その通りだと思います。戦後の自民党農政はずっとそうでした。農民のことなどまったく頭にないかのような。コロナ対策と経済の関係もそうですね。)

■谷口氏の評価 ―それでもなお・・・

 みどりの戦略には問題が多いが、それでは完全否定してしまえばいいのかといえば、そうとはいえない。本稿の最後に、みどりの戦略に対する私の評価を述べたい。

 まず、「農林水産業のCO₂ゼロ」「化学農薬五〇%削減」「化学肥料三〇%削減」「有機農業二五%拡大」という四つの数値目標にはほとんど意味がないと思っている。なぜなら、どの数値もそれを出すに当たって農水省が具体的なデータを積み上げた形跡がないからである。しかし、数値には意味がなくても、国がこの四つの目標を掲げたということは、今後三十年後には日本は化石燃料、化学農薬や化学肥料に依存した農業から決別すると宣言したことを意味する。この事実はとてつもなく重い。政府は今年九月に開かれる「国連食糧システムサミット」でみどりの戦略を公表する予定だという。そうなれば、この戦略は日本の国際公約になる。国は本気で取り組まざるを得なくなるだろう。私はみどりの戦略を前向きに受けとめ、その実現に向けてできるだけのことをしたいと考えている。

 取り組むべき課題のひとつに、「有機農業の再定義」がある。有機農業というと、単に化学肥料や農薬を使わない農業のことだと思う人が多いだろう。だが、近年の研究によって、有機農業はもっと多面的な性格を持ったものだということが明らかになってきている。従来の定義は狭すぎるのである。有機農業は省エネルギー・省資源、低投入、 地域循環、自然共生、公正などの多面的な性質を持っている。また人と人のつながりを作り、地域の存続や活性化にも貢献している。言い換えると、有機農業は農というものが持つ多面的機能を効果的に発揮している。こうした特徴を正しく表すように、有機農業という言葉を再定義する必要がある。

 正しく認識された有機農業は、一国の農業全体を持続可能な農業に転換させるという巨大な潜在力を秘めている。EUを中心に有機農業を推進する政策が進められているのはそのためだ。だから、日本でも有機農業の潜在力を発揮させて、農業全体を持続可能な方向に転換するべきだと私は考えている。

 パンデミックから五〇〇日。混沌とした状態がいつまでも続くのかと思っていたが、みどりの戦略によって少し先が見えてきた。これが本当の持続可能な社会への転換につながるように微力を尽くしていきたい。

■食と農への関心の高まりの中で

 以上で新農業政策「みどりの戦略」の説明を終わりますが、その他の部分にも捨てがたいことが書かれていますので、いくつか取り上げておきます。

●現在の食糧の生産、加工、流通は「多国籍アグリビジネス」と呼ばれる大企業によって寡占状態になっている。その食料供給網が壊れかかっている。大規模化・効率化を追求した結果、感染症には極めて弱い流通を作ってしまったというわけだ。

●コロナ禍の中で、食料輸出国の一部では自国民を優先するため輸出を制限する動きが見られた。そんな冷徹な、でも当然のルールがコロナ禍で再確認された。日本の食料自給率は三七%しかない。しかも近年、降下しつづけている。輸入が途絶えれば一気に食料不足に陥るのは目に見えている。国の農業政策は「強い農業」の旗を掲げて大規模農家や農業法人だけを支援し、地域の大部分を占める小規模農家を切り捨てるような政策を進めてきたが、それでは国民に安定して食料を供給することはできない。コロナ禍を機に、小規模農家や新規就農者を含めた多様な担い手を総合的に支援する方向に政策を転換するように訴えたい。

●いつものように野良に立って自然の息吹を感じながら、コロナ禍のことを思う時、ふと「近代化社会の仕組みはなんと脆弱なものでしょう」という言葉を書きつける農家がある。この農家の頭の中では、東京はみるみる小さく頼りない存在になり、代わりに自分が生きるこの大地がどっしりとした存在感を取り戻した。すごい。田舎と都市の存在感が逆転した。それもこんなにあっさりと、呆気なく。

●コロナ禍を契機に、田舎の復権と都市の没落が進む。

●コロナ禍で食や農に関心を持つ人が増えたという話をよく聞く。コロナ禍で農業を始めた人が増えていることを小口広太氏が報告している。ステイホームで鬱屈した人々にとって、農地は三密を回避する開放的な「居場所」であり、落ち込んだ生活の質を取り戻そうとしているのだろうと。

●コロナ禍で有機食品(オーガニック食品)の売り上げが世界各国で急増したという事実もある。日本でも有機食品の売り上げは伸びているという。ここから窺えるのは、「健康ー免疫ー食生活ー有機農業」というつながりだ。ワクチンを接種しても絶対安全とはいえないのだから、コロナから身を守るには、きちんとした食生活を送って免疫力を高める。そのために有機食品を食べるという考え方である。

●情勢は混沌としており、ここで述べた傾向がどこまで広がるか、継続するのかは明言できない。しかしコロナ禍の長期化によって人々の意識の中に膨大な心理的エネルギーが蓄積されていることは間違いない。現状に対する不満、苛立ちや怒り、進むべき道を求める切実な願いなどが融合したマグマのようなエネルギーが、いずれ巨大な社会変動を引き起こすだろう。このエネルギーが社会や国家間の対立を激化するような方向ではなく、よりよい社会を生み出す方向に向かうことを願わずにはいられない。

 

 

 長々と谷口氏の記事を紹介してきましたが、これはわたしたちの「シン・二ホンへ!」を考えるうえでとても重要な情報であると思いました。わたしは、俵津(明浜・西予市)の若い人たちが、この大きな「トレンド(潮流)」をしっかりとつかみ、豊かで幸福な農業や社会を創っていただくことを願っています。明日からわたしもまた、大地を踏みしめながら、みかん山へ登っていこうと思っています。「ジャガタラお春」を口ずさみながら。

                        (2021・9・26)