題名に魅かれて、金子勝さんの『裏金国家 日本を覆う「2015年体制」の呪縛』(朝日新書、2024・9刊)を読みました。金子さんは経済学者、専門は財政学・地方財政論・制度経済学。1952年生まれ。
帯にあるように円安・軍事費増、世襲による地域独占、借金垂れ流し、仲間内資本主義、オリガルヒ経済……、腐敗する国家の実像、「裏金」の深層に眠る悪弊と衰退のメカニズムを暴き出した本です。読み終わってこの国の病弊のあまりのひどさに絶望的な気持ちになりました。でも、金子さんは終章でそこから抜け出る道も示されております。
それは、希望の道です。「第5章 ディストピアから脱する道―裏金を提供する者のためでなく困っている者のための政治へ」の冒頭部分を書き写しておきます。新しい日本像を考える(創る)参考にしていただければ嬉しいです。
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裏金国家の仕組みを徹底的に壊さないと、日本経済の衰退は止まらない。政権交代がなければ、それはかなわないだろう。
坂本龍馬が姉への手紙に書いた「日本を今一度せんたくいたし申候」という言葉を想起しよう。坂本龍馬は徳川幕府260年を終わらせようと、前土佐藩主の山内容堂に船中八策を具申したと言われている。自民党政治を葬り、国民の望みを実現する新たな政権交代を目指すために最低限やらなければならない改革を「令和船中八策」になぞらえるとしたら、どうなるであろうか。次のようになるのではないか。
【令和船中八策1:政府と国会議員の不正腐敗を一掃する】
国会に第三者委員会を設置して裏金問題を徹底的に調査して法的責任を明確にする。連座制導入、企業団体献金の禁止、制作活動費の廃止など政治資金規正法の再改正を行う。森友文書改ざんと日本学術会議任命拒否過程の公開も実施する。
【令和船中八策2:エネルギー独占企業を解体して円安インフレから生活を守る】
円安インフレが止まらない。石油元売りや電力大手はエネルギー補助金でボロ儲け。トリガー条項を時限的に発動したうえで、石油元売りの独占と電力大手の地域独占を厳しく規制すべきである。他方で、消費税を使った法人税減税を元に戻して本来の社会保障に使う。同時に、賃上げする中小企業を優遇し、賃上げしない大手企業の内部留保に課税し、非正規雇用への大幅賃上げを支援する。
【令和船中八策3:軍事国家ではなくイノベーティブ福祉国家を目指そう】
防衛費を含めて聖域なしに予算歳出を組み替えて、給食費無償化から大学授業料軽減まで教育費の負担を軽減するとともに、大学の自治を回復させて科学技術予算を増やす。そして少子化対策としても教育や医療や住宅のベーシックサービスを充実させる。
【令和船中八策4:エネルギー転換を進める】
政府のGXの成長戦略は世界的に進んでいるエネルギー転換を遅らせるだけである。福島第一原発が廃炉できない現実と正面から向き合い、世界的に見てコストが非常に高い原発を60年超えで運転させる愚かな政策をただちに止めるべきである。原発は国有化するとともに、発送電の所有権分離を進め、自然エネルギーと蓄電池とスマートグリッドを爆発的に拡大させる。
【令和船中八策5:デジタル敗戦から立ち上がる】
政府のDXはデジタル敗戦を強めるだけだ。このままではGAFAMに負け続け、膨大なデジタル赤字を抱えてしまう。まず欠陥カードのマイナ保険証の強制と多数の紐付けを止めさせる。そして政治献金を出すJ-LIS(地方公共団体情報システム機構)を解体し、IT知識を持つデジタル大臣を任命し、新しく新興企業に門戸を開き、一つひとつ丁寧なプログラムを作り直していく。
【令和船中八策6:エネルギーと食料の自給を強める】
貿易赤字が定着する中、科学技術や人への投資が不可欠だが、効果が出るのに時間がかかる。エネルギーと食料の自給率を高めて、輸入を大幅に減らすことが必要である。そのためにエネルギー転換を軸に地域分散ネットワーク型経済に転換し、食品加工を振興し、病院や高校の維持など地域政策を推進して地域崩壊を食い止めていく。
【令和船中八策7:人口減少を止めるには女性を主人公にする社会を創る】
自民党を下野させ、旧統一教会の呪縛を取り除いて女性を主人公にする社会に変えることが必要である。少子化を防ぐには、人出不足の中、女性の正社員化を進めながら、教育費負担を軽減し、子育て世帯の家賃補助を行い、育児休暇や保育サービスの充実など子育てできる環境を整えることが不可欠である。
【令和船中八策8:若者議会を創設する】
少子高齢化は若者を少数派にする。いま若い人にチャンスを与えないと、永遠に新陳代謝の機会が失われてしまう。実際、地球温暖化問題や少子化問題の負担を最も負うのは若者だ。未来に生きる「若者議会」(仮)を招集し、一定の予算枠をもうけて若者の意志決定で政策を決めていく大胆な制度導入を行っていく。
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いかがでしょうか?明治が龍馬の船中八策をもとに五箇条の御誓文を発して新しい船出をしたように、いまも何とかやれないものでしょうか?!
ついでですから、金子さんの同書「はじめに」もたいへんいいものですから、抜き書きしておきます。
「表」の社会には、いまや弱り切って安らぎを失った風景が広がっています。
日本は未来を失って子どもが生まれない国になりました。かつて実りに満ちた大地は荒れ、死んだ土地に誰も足を踏み入れなくなっています。町々や村々では、耕作放棄地が増え、空き家があちこちに生まれ、年老いた人々が一人っきりで過ごしています。
私たちは日々流されて生きています。
これまで私たちは絶望に追いやられてきました。しかし人々を絶望させてきた深淵がどこにあるかをさぐり当てることができれば、それを克服する道も見えてくるものです。それがいかに困難な道であるとしても、そして道をつないでいければ、私たちの心の中の希望をはっきりと大きくさせていくものです。その意味で、いつも絶望は希望の始まりを意味しています。そう思って最後まで読んでいただければ幸甚です。
(2024・12・8)