虹の里から

地域の人たちと、「まちづくり」について意見を述べ合う、交流ブログです!

最高知性の処方箋

 いま、現在の日本で、最もタフで信頼できる発言者(考える人=知識人)は、内田樹(うちだたつる)さんだと思います(あくまでわたしの主観ですが)。「日本にこの人がいてよかった」と心から思える人です。思想家で武道家です。内田さんは若い時から「合気道」をやっていて、そう、幕末、江戸の千葉定吉道場で剣の修業をして己をとことん鍛えた、あの坂本龍馬のように、とにかく“腹”が座っている。見事な生き方をされていて“隙”がない。だから、誰に対しても恐れることなく豪速球で直言している。あらゆることに通じてもいる。

 その内田さんが、人口減少や自然災害やパンデミックやテロや不況やあらゆる最悪の事態が起こる現代という時代を生きる生き方(処方箋)を、最新の『サル化する世界』(文藝春秋)の中で述べているので、紹介させていただきます。

■(わたしたちの身辺的なところから)

①(50代以下の若い人たちに)「そもそも結婚は、幸せになるためにしているのではありません。夫婦という最小の社会組織を通じた「リスクヘッジ」であり、安全保障の仕組みなのです。病気になったり失業したり、思いがけない事態になったときに、一人では一気に生活の危機に追い詰められますが、二人なら何とか生き延びられる。お互いがサポートできる。それが結婚の第一の意味です。」「夫婦の問題については、愛が足りないとか気配りがないとか、あるべき夫婦に比べてうちは・・・・・・というような「ファンタジー」を語っている余裕はもうありません。今すぐに備えるべきは、75歳以降の老年期の貧困問題です。」

②(「老境の後退戦に備える」われわれに)「一番大事なことは配偶者との相互支援体制を確かなものにすることです。まずは現実認識を共有する」こと。

③「生き延びるために一番大切なのは、ネットワークです。都会から帰農した若者たちに聞くと、日々の生活必需品はほとんど物々交換やサービス交換で手に入るそうです。市場経済と直接にはリンクしていないから、不況になろうと株が乱高下しようと、生活の質は急激には変わらない。生活の安定を考えるなら、地域共同体や親族共同体の相互扶助ネットワークをしっかり構築するのはありうる選択肢の一つだと思います。とにかく性別も年齢も、社会的ポジションも違う人と連携するネットワークを形成すること。メンバーが多様である、ニッチを異にしていること、得意技がそれぞれ違うことは安全保障の基本中の基本です。階層や職業が同質的な人々とだけの集団には危機耐性がありません。」

➃「生き延びるために必要なもう一つは、いかに“愉快に、機嫌よく”生き延びるか、です。不機嫌では想像力も知性も働きません。悲観的にならない、怒らない、恨まない。そういうネガティブな心の動きはすべて判断力を狂わせます。危機的状況下では判断力の正確さが命です。にこにこ機嫌よくしていないと危機は生き延びられません。眉根に皺寄せて、世を呪ったり、人の悪口を言ったりしながら下した決断はすべて間違います。すべて。ほんとにそうなんです。不機嫌なとき、悲しいとき、怒っているときには絶対に重大な決断を下してはいけない。これは先賢の大切な教えです。」

 この本は、「今さえよければ、自分さえよければ」という人間が蔓延している日本(と世界)の処方箋を書いた本です(例えば以下のような)。ここでは上記のような身近な部分を取り出してみました。

「(・・・)サルたちは、未来の自分が抱え込むことになる損失やリスクは「他人ごと」だと思っている。その点ではわが「当期利益至上主義」者に酷似している。「こんなことを続けていると、いつか大変なことになる」とわかっていながら、「大変なこと」が起きた後の未来の自分に自己同一性を感じることができない人間だけが「こんなこと」をだらだら続けることができる。その意味では、データをごまかしたり、仕様を変えたり、決算を粉飾したり、統計をごまかしたり、年金を溶かしたりしている人たちは「朝三暮四」のサルとよく似ている。」

 わたしは、内田さんのブログ(「内田樹の研究室」で検索してください)も愛読しております。みなさんも是非ご覧になってみてください。ごく最近の記事「現状分析と展望」で内田さんは、「日本人には危機管理能力がない」と嘆いておられます。

 とにかく、どれでもいいですから、一度内田さんの本を手に取ってくださることをお願いしておきます。ちなみに、わたしのおススメは次の6冊です。

1、『内田樹生存戦略』(自由国民社

2、『街場の憂国論』(文春文庫)

3、『街場の天皇論』(東洋経済新報社

4、『ローカリズム宣言ーー「成長」から「定常」へ』(デコ)

5、『人口減少社会の未来学』(編著)(文藝春秋

6、『農業を株式会社化するという無理ーーこれからの農業論』(共著)(家の光協会

 

                           (2020・4・30)