虹の里から

地域の人たちと、「まちづくり」について意見を述べ合う、交流ブログです!

俵津は、滅びない!

1、

「このままでは、これから50年で、俵津は滅びてしまう!!」

みかん農家の友人は、そう吠えた。(一年前のことだ)。

「え、なに?」

「現在の俵津の人口はざっと1000人。その内65歳以上が55パーセントを占めて550人。これが30年後にはほぼいなくなる。さらに20年後には残りの大半が。今世紀中には俵津から人がいなくなる計算じゃ。みかん農業の先行きも心配ぜよ。」

「そりゃ大変じゃあ。俵津に22世紀は、ないのか。」

 ショックだった。そして、感動した。こんな視点で俵津の将来と俵津の農業を冷徹にみていた奴がいたとは。

「何とか、ならんか?」

「今のままじゃ、なんともならん。」

 

 おそらくこれは、全国津々浦々の人たちの共通する悩みだろう。近頃は「消滅自治体」のリストまで上がるようにもなっている。幕末・明治維新の頃には、3000万人くらいの人口だったそうだが、それでも藩が300もあって、人々はこの国土の全体を最大限利用して暮らしていたのに。馬鹿だなあ、政治家も官僚も。こんな日本にしてどうするの。こんなに国民を悲嘆にくれさせてどうするの。1億3000万人もいるせまい日本。みんながのびのびと分かれて住んで、楽しくゆったりと暮らせばいいのに。

 この話はそれから今日までわたしの頭から離れなかった。

 

2、

 俵津は本当に滅びるのか。俵津を滅亡から救う手立ては本当にないのか。

 わたしが答えを出せるような問題ではもとよりないが、「ひょっとしたら、世の中、変わるかもしれんぞ。」と思える雑誌記事にであったので、それを紹介する。

 「災害列島改造論」という“特集”を組んだ『世界』3月号(岩波書店)。そこには、次の論文とインタビュー記事がある。

①[真の危機とは] 「超広域大震災にどう備えるかーー大地動乱・人口減少時代の成長信仰が衰亡をまねく」石橋克彦(神戸大学名誉教授、地震学)

②[破局に備える] 「災害で誰が犠牲になるのかーー行政責任と予防政策」宮入興一(愛知大学名誉教授、財政学・地方財政学・地域経済学)

③[インタビュー] 「水害多発の時代に命を守るーー滋賀県流域治水条例の挑戦から」嘉田由紀子参議院議員、前滋賀県知事)

➃[災後では遅い] 「「事前復興計画」による社会変革」五十嵐敬喜(法政大学名誉教授、弁護士)

 

3、

 早速①から。

 ここには、わたしたちが市の広報などによって知らされる「南海トラフ地震」の様子とは全く違った姿が描き出されている。その想定される「超広域大震災」の内容(実相)を見てみよう。

・2011年3月の東日本大震災福島原発震災から九年が過ぎた現在も私たちは、依然として「大地動乱の時代」すなわち日本列島の大地震活動期の真っ只中にいる。

・敗戦後ひたすら経済成長を追求してきた日本は、バランスのとれた社会と国土を自ら破壊して、列島の大地の自然な営みによって自滅しようとしている。

・高度の文明社会が初めて超広域大震災に襲われる。私たちは突然「原始的」な生活環境に突き落とされる。

駿河湾奥から日向灘沖の陸側に起こる南海トラフ巨大地震が迫っている。

・本州中部を南北に横断する糸魚川ー静岡構造線断層帯という活断層帯が、南海トラフ地震によって、それに沿って震源域が甲府~諏訪~松本盆地あたりまで延びる可能性がある。

南海トラフ地震の前後に、複数の内陸大地震や首都直下地震が連発する可能性がある。

・富士山の大噴火が誘発される可能性もある。

・ゆったりした大揺れが10分くらい続く長周期強震動が西日本全域と東日本の広域を襲う。

・多くの大・中・小都市が軟弱地盤にあるから、日本の西半分で阪神・淡路大震災が同時多発するような状況になる。

・大規模な山体崩壊が起きて堰止め湖ができ、それが後に決壊して下流に大洪水をもたらす。

地震前後に豪雨・暴風・大雪があれば複合災害が懸念される(地球温暖化による異常気象現象が多発している時代、その可能性は大である)。

・大津波が、茨城県沿岸・伊豆小笠原諸島から九州・南西諸島までを襲う。大阪湾や瀬戸内海にも浸入し、津波被災地は東日本大震災よりも広大になる。

・広範囲で急激な地殻変動も生じる。駿河湾西岸~遠州灘東部沿岸、紀伊半島南部、室戸岬足摺岬先端付近などは一メートル以上隆起し、浜名湖北岸、伊勢湾・紀伊水道沿岸、高知平野須崎市宿毛市などは場所によって一メートル以上沈降する。四国の瀬戸内海沿岸も地震と同時か地震後ゆっくり沈降するおそれがある。隆起域では港湾が機能せず、沈降域は浸水・滞水が深刻である。

・本震直後からの大余震が震災を拡大する。

・被災者数は、被災県の多さから、2000万人を優に越え、東日本大震災の数倍になるかもしれない。(土木学会による推計被害総額は、南海トラフ1410兆円、首都直下778兆円。②から)

四国電力伊方原発愛媛県)は、直近の活断層も問題だが、南海トラフ地震地震動を過小評価しており、想定外の揺れ、地殻変動、大規模な余震の影響が懸念される。中部電力浜岡原発静岡県)も非常に危険である。さらに中国東海岸原発で思いがけない事故が起こるかもしれない。大震災で壊滅している日本に、偏西風にのった放射性物質が降り注ぐという悪夢も荒唐無稽とはいえない。

リニア新幹線の路線は、前述の糸静線断層帯以外にも複数の顕著な活断層を貫くため極めて危険である。同線は莫大な電力を必要とするので浜岡原発が再稼働されることも考えられ、リニア・原発大震災も起こりうる。

・膨大な瓦礫(災害廃棄物)が、西日本全体に溢れるから、それ自体が空前の災害になる。

少子高齢化・人口減少が進行する中、南海トラフ地震が今世紀半ば以降になれば、高齢者ばかりで隣近所での救命や消火が困難という集落がいっそう増える。

・(全国で1000万戸あるという)空き家のとくに老朽化したものの地震時の倒壊と道路閉塞が懸念される。

南海トラフ地震が起これば、世界中からの支援はあるだろう。しかし、国内では、被災地があまりに多いから、救援隊やボランティアが極度に不足するだろう。食料・水・救援物資などの国内外からの提供も十分にはできないと思われる。

・(外国人に依存している社会では)外国人の被災も大きな課題。

(以下割愛)

 

4、

 それでは、日本はどうしたらよいというのだろうか?そちらの記述の方に目を転じよう。

○東京一極集中を根底から是正し、三大都市圏から全国に人口を分散する。

○生存の基本である一次産業を全国的に復権し、各地域でそれぞれの風土に根ざした域内経済循環と食料・エネルギー・ケア(労働を含む)の最低限の自給を確保する。

○根本的には「経済成長」の妄信から覚醒し、自由貿易が絶対という教条主義から脱しなければならない。

○安倍政権の「地方創生」政策は、すべて成長戦略の一環であり、かえって国土と社会の不均衡と格差を拡大する。

○観光立国は慎重に考えたほうがよい。小さな自治体の訪日客頼みの観光経済は、超広域大震災で旅行者が長期間減少した時に破綻するリスクもある。

地球温暖化を1.5度以内に抑えることが緊要である。

○被災地はどこも、発災直後から長期間、遭難者の救出から生存者の暮らしの支えと最低限の回復までを、複数の集落で協力しながら自力で遂行する覚悟をもたなければならない。

南海トラフ地震の膨大な被災地のそれぞれで、生き残った人々が悲しみを抱えながらも一日も早く最低限の落ち着いた生活を取り戻すためには、平時から多様な職業の老若男女が暮らし、小規模分散型のエネルギー自給や食の地産地消が相当程度おこなわれ、域内経済循環がなりたっている必要がある。日本社会の真の強靭化とは、そのような自律的な地域社会が拡がっているようにすることである。

○限られた地球の資源と環境のなかで無限の経済成長などできるはずがないし、目指すべきではない。ある程度の蓄えと減価償却を考慮しつつも、毎年同程度の売り上げと生活水準で穏やかに暮らす文化をもった「脱成長」ないし「定常経済」社会をつくらなければならない。

○すでに「平成の大合併」が過疎化を加速し、自治体の防災力を弱くした。政府は新たな行政体の「圏域」を検討しているが、それは消滅自治体を増やしかねない。

○地域の活性化と震災後の被災者の仕事の維持の両面で、働く全員が出資者・経営者でもある労働者協同組合(ワーカーズコープ)の普及が重要である。

○過度な貿易は地球温暖化を加速し、環境を悪化させる。貿易品には本来、長距離輸送に対する環境税や炭素税をかけるべきだろう。

○最近、各地の高齢化した農山漁村に、都会の若者が単身や家族で移住して仕事の担い手になりつつあるが、これは希望である。

○西日本大震災や首都圏大震災で日本が荒廃すれば、経済成長至上主義は間違っていたという大合唱が起こるのが目に見えるようである。しかし、今度こそ、超広域大震災が起きてから反省したのでは取り返しがつかない。「防災」の話は「いま有る社会」の技術的・戦術的な安全装置に使われている。しかし、人口減少・地球温暖化加速時代の大地動乱に対しては、大都市・大企業中心から地方・住民・地場産業中心へ、グローバリズムからローカリズムへ、社会そのものを大転換しなければならない。真の防災は「世直し」である。

(以上で①の引用を終わる。②以下はまたの機会に)

 

5、

 日本はいまこそ変わらなければならない、と思う。変われば、俵津は滅びない。全国の津々浦々も滅びない。

 「超広域大震災」が、俵津を破壊しても・・大丈夫。地域に人が残ってさえいれば、また再生は可能だ。この国土で暮らす人たちは史上何度も何度も不死鳥のように、その都度立ち直って生きてきたのだから。

 

《追記》

 『世界』3月号のバックナンバーを、俵津のできるだけ多くの方に(買って)読んでいただきたいと思います。もちろん、わたしが持っているものは貸します。ご連絡ください。これは「俵津の将来」を考えるための「基本文書」の一つに確実になると思います。

                            (2020・4・1)